「働くとは、憂鬱だけどワクワクするもの」。元バンドマンのクロスビットVPoE山田大樹氏が辿り着いた、組織づくりの“ロジック”

2025-12-24

EVANGEをご覧の皆さん、こんにちは。フォースタートアップスのEVANGE運営チームです。私たちが所属するフォースタートアップスでは累計2,100名以上のCXO・経営幹部層の起業や転職のご支援*をはじめとして、多種多様なビジネスパーソンを急成長スタートアップへご支援しています。EVANGEは、私たちがご支援させていただき、スタートアップで大活躍されている方に取材し、仕事の根源(軸と呼びます)をインタビューによって明らかにしていくメディアです。

*2025年9月1日時点
目次

    「仕事は苦役なんかじゃない」。

    そう語るのは、株式会社クロスビットでVPoE(Vice President of Engineering)を務める山田大樹氏だ。

    元バンドマンという異色の経歴を持ち、Web制作会社、カカクコム、バニッシュ・スタンダードを経て、2024年夏にクロスビットへ参画。カカクコムでは「食べログ」の新規事業を牽引し、前職バニッシュ・スタンダードでは組織の立て直しを成し遂げた“組織づくりのプロフェッショナル”である。

    彼はなぜ、常に「困難な場所」を選び続けるのか。そして、彼が目指す「憂鬱だけどワクワクする」働き方とは何か。そのキャリアの軌跡と、組織マネジメントの深層にある哲学に迫る。

    山田 大樹(Daiki Yamada)
    大学卒業後、バンド活動を経てエンジニアとしてのキャリアをスタート。受託開発企業にて約9年間、Webアプリケーション開発やマネジメントを経験。2018年に株式会社カカクコムに入社し、「食べログ」のシステムマイクロサービス化や、新規事業開発部の部長として複数の新規事業立ち上げを牽引。2021年、株式会社バニッシュ・スタンダードに入社。開発組織の立ち上げからエンジニアリングマネージャー、プロダクトオーナーを兼任し、組織のアジャイル化や採用、評価制度構築を行い組織を急成長させる。2024年8月、株式会社クロスビットに参画、2025年1月よりVPoE就任。

    【略歴】
    株式会社クロスビット / VPoE / 2024年8月 ~ 現在
    株式会社バニッシュ・スタンダード / Technology Division マネージャー / 2021年1月 ~ 2024年7月
    株式会社カカクコム / 食べログシステム本部 新規事業開発部 部長 / 2018年4月 ~ 2020年12月
    株式会社フォーク / 第3プロデュースユニット制作開発部長 / 2009年7月 ~ 2018年3月
    聞き手:フォースタートアップス株式会社 熊谷 裕太郎、谷本 一磨

    「俺が一番優秀になる」と尖っていた20代。カカクコムで知った“個”の限界

    熊谷: 山田さんのキャリアは非常にユニークです。バンドマンからエンジニアへ転身され、そこからカカクコムのようなメガベンチャー、そしてスタートアップへと変遷されています。それぞれの転機でどのような思いがあったのでしょうか。

    山田氏: 元々はバンドをやっていて就職活動すらしていませんでした。バンドを辞めた時に「やばい、仕事しなきゃ」と思って、最初は地元の自動車開発会社に入ったんですが、リーマンショックの影響ですぐに仕事がなくなってしまって。それで上京してWeb制作会社に拾ってもらったのが本当のキャリアの始まりです。当時は「平日は仕事、土日は勉強。一番優秀になりたい、出世したい」と、ひたすら技術力を高めることに没頭していました。でも30歳を過ぎた頃、「もっと広い世界で自分を試したい」「自分たちが作っているサービスに誇りを持てる環境に行きたい」と思うようになり、カカクコムへ転職しました。

    熊谷: カカクコムでは「食べログ」という巨大サービスや新規事業に携わられました。そこでの経験は山田さんにどのような変化をもたらしましたか?

    山田氏: 完全に鼻をへし折られましたね(笑)。当時の上司からは「お前のチームが会社だとしたら、どこでコストを回収するんだ?」「そこまで考え抜いているのか?」と、エンジニアという枠を超えて事業家としての覚悟を問われ続けました。

    そこで気づいたのは、「スーパーマンなんていない」という事実です。自分も含めて、一人の人間ができることなんてたかが知れている。ソフトウェア開発は“チーム競技”であり、周りの人を支援し、協力して成果を出すことの方が、自分がどれだけコードを書けるかよりも遥かに重要だと痛感しました。この「個からチームへ」の意識変革が、今の自分のベースになっています。

    「仕事は苦役であってはいけない」。原体験から生まれたマネジメントの“ロジック”

    谷本: その後、バニッシュ・スタンダードで組織開発に奔走されます。山田さんは以前から「仕事は苦役なんかじゃない」という信念を掲げられていますが、その背景には何があるのでしょうか?

    山田氏: 原体験があります。20代の頃、仕事でメンタルダウンする仲間をたくさん見てきましたし、友人が仕事を苦にして亡くなったこともあります。また、妻は元シングルマザーなんですが、以前は生きるために必死で働いて、「仕事をするために保育園やタクシーにお金を払っている」ような状態で疲弊していた。「仕事って、こんなにしんどいものなのか? 2020年代にもなって、まだ仕事は苦役なのか?」と、ずっと疑問を抱いていたんです。

    谷本: それが、組織づくりにおける「人のWill(意志)」を重視するスタイルに繋がっているんですね。

    山田氏: そうです。でも、これは単なる優しさや精神論ではありません。「ビジョナリー・カンパニー」などの名著を読んでも、「労働者には苦役を強いて使い倒せ」なんてどこにも書いていないんですよ(笑)。むしろ、人の内発的動機を大切にすることが事業成長につながると証明されています。つまり、人に優しくしたり、エンゲージメントを高めたりするのは、嫌われたくないからじゃなくて、それが事業を伸ばすための“ロジック”だからなんです。自分より遥かに賢い先人たちが証明したこのロジックを、僕は実践したいと思っています。

    「主役が嫌い」。“地味”で実直なクロスビットを選んだ理由

    谷本: バニッシュ・スタンダードで組織を立て直し、ご自身のキャリアも「折り返し地点」に差し掛かった38歳で、なぜ次なる挑戦の場としてクロスビットを選ばれたのでしょうか。

    山田氏: 理由はいくつかありますが、まず僕は昔から「主役が嫌い」なんです(笑)。バンドでもドラムだし、アニメでも主人公より脇役が好き。「主役じゃないやつがまくっていくゲーム」の方が燃えるんです。クロスビットが向き合っているデスクレスワーカー(ノンデスクワーカー)の領域は、社会インフラを支える現場の方々です。一見地味かもしれませんが、そうした方々を支援することに熱量を感じます。

    また、クロスビットという会社自体も、いい意味で地味で実直でした。「俺がこうしたい」というエゴよりも、「顧客が困っているからこうする」という合理性がある。そして何より、開発組織にマネージャーがおらず、組織開発というピースが欠けていた。「ここなら自分が一番役に立てる」と確信しました。

    現在地と未来。「憂鬱だけどワクワクする」挑戦へ

    熊谷: 現在、クロスビットのVPoEとしてどのような課題に向き合っていますか?

    山田氏: 入社して1年が経ち、フェーズが変わってきました。これまでは「やるべきことが明確だった」フェーズでしたが、今期からは「解くべきイシュー自体を探索し、新たな事業の柱を作る」フェーズへと移行しています。「らくしふ」だけでなく、採用支援や生成AI活用など、新しいプロダクトを次々と仕込んでいます。当然、正解のない問いに向き合うことになるので、組織としても痛みや変化を伴うでしょう。でも、安定して勝てない勝負をするより、不確実でも夢中になれる環境を作りたい。そのための組織づくり、カルチャーづくりが今の私のミッションです。

    「安定的な負け」を選ぶな。心が震える場所へ

    熊谷: 山田さんにとって「働く」とは何ですか?

    山田氏: 「憂鬱だけど、ワクワクするもの」ですね。

    谷本 : その心は?

    山田氏: 憂鬱な仕事をしている時こそ、一番成長しているし、人の役に立っていると感じるからです。逆に、憂鬱じゃない時は「俺、今仕事してないな、成長してないな」って焦るんです(笑)。朝、ベッドから起きるのが憂鬱だけど、早く会社に行って挑戦したい。そんな矛盾した感情が共存する状態こそが、僕にとっての理想の「働く」であり、そういう状態をメンバーにも味わってほしいと思っています。

    熊谷: 最後に、スタートアップへの挑戦を迷っている方や、山田さんのようなキャリアを目指す方へメッセージをお願いします。

    山田氏: よく「安定」という言葉を耳にしますが、今の日本で「安定」を選択するということは、世界的に見れば「安定的な負け」を選んでいることと同義ではないでしょうか。本当の安定とは、大企業にいることではありません。自分が「夢中になれる状態」を作れているかどうか、それだけです。自分のキャリアを振り返ったとき、安定した場所に留まるよりも、自分が「震えられる場所」に身を置くことの方が、長い目で見ればよほど安定的で、強いキャリアになると僕は確信しています。

    働くことは、時に憂鬱です。でも、憂鬱になるほど難しい壁に挑んでいる時こそ、人は最も成長し、誰かの役に立っている。「憂鬱だけど、ワクワクする」。そんな矛盾した、けれど最高にエキサイティングな感覚を味わいたいなら、ぜひこちら側へ来てください。「そうだね」と共感し、心が震えたあなたと、一緒に働けることを楽しみにしています。

    編集後記

    熊谷
    山田さんとは初回のご面談から5回以上、数年単位で対話を重ねさせていただきました。

    カカクコム社にご入社された当時は「自分を試したい」と、次のバニッシュ・スタンダード社にご入社された当時は「この事業が伸びることで少子化を止めることができるのではないか」と、山田さんの志が、自身を取り巻くものから対社会へ影響範囲を広げていかれることがとても印象的でした。

    また、働くとは「憂鬱だけど、ワクワクするもの」という言葉も、正直に等身大でご自身と向き合い続けた山田さんだからこそのメッセージです。綺麗ごとだけでは片付けない。酸いも甘いもとことん向き合った先に、クロスビット社が掲げる「『はたらく』先の''最高''」があるんだと思います。

    谷本
    山田さんは、ご面談当初から謙虚さと共に強い向上心を感じていましたが、その背景には原体験からくる"働く"という社会への問題意識がありました。

    この情熱を最大化できる環境はどこかをとにかく壁打ちさせていただき、未来の"働く"をアップデートするクロスビット社へお引き合わせさせていただきました。

    これまで数々のハードシングスを自分ごと化し乗り越えられてきたエピソードをお聞きし、引き続き社会を変革していくスタートアップへご支援ができたことを嬉しく思っております。山田さんと共に、未来の"働く"をより良くしてまいります。


    聞き手:
    熊谷 裕太郎(Yutaro Kumagai)
    フォースタートアップス株式会社 シニアヒューマンキャピタリスト/マネージャー
    自身が享受してきた生活水準や教育を次の世代にも繋いでいきたいという思いでヒューマンキャピタリストとして活動。これまではソフトウェア領域におけるエンジニアの転職支援に従事。直近は、日本のお家芸でもあるハード領域の転職支援にも従事。優秀な日本の技術者を宇宙/エネルギー/フードテックといった次の成長産業に結集させることが直近の活動テーマ。
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    谷本 一磨(Kazuma Tanimoto)

    フォースタートアップス株式会社 シニアヒューマンキャピタリスト/マネージャー
    新卒でネット代理店のベンチャーに入社し、スタートアップを中心にマーケティングのコンサルティングに従事。その後、事業開発を経て、フォースタートアップスに入社。日本から世界で戦える産業にフォーカスし、エンタメ、ディープテック、産業DX等を中心にCxO/VP支援多数。
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