「肩書きがなくても、本当の自分で勝負する」。株式会社SmartHR VPofHR宮下 竜蔵氏が挑むスタートアップの組織変革

2025-09-17

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*2025年4月1日時点
目次

    株式会社SmartHRで執行役員 兼 人事統括本部長を務める宮下 竜蔵氏。製薬業界のトップセールスからキャリアをスタートし、外資系企業で人事のプロフェッショナルとして手腕を振るってきた。コロナ禍の航空業界では、大規模なリストラの危機から従業員の雇用を守り抜いた実績も持つ。

    順風満帆に見えたキャリア。しかし彼は、安定した役職と環境を手放し、当時1,000人規模の企業であるSmartHRへの扉を叩いた。そこには当時、「役員クラスでも、まずはいちメンバーとして入社する」という方針があった。

    なぜ彼はその”大きな賭け”に出たのか。大企業の常識を「アンラーン(学びほぐし)」し、SmartHRの”らしさ”を壊し進化させながら、同社を次なるステージへと導く組織変革の裏側とは。彼の挑戦の軌跡を追う。

    宮下 竜蔵(みやした りゅうぞう)
    株式会社SmartHR 執行役員 兼 人事統括本部長(VP of Human Resources)
    関西学院大学卒業、神戸大学大学院(MBAプログラム)修了。大学卒業後、外資系製薬会社に入社し、営業や研修業務を経験。その後、複数の事業会社にて人事業務(採用・教育・HRBP等)を経験。前職では、Head of HRとして人事全体のマネジメントを担当。2023年11月にSmartHRに入社し、人事戦略の策定、タレントマネジメント導入等、人事業務に幅広く携わる。2024年7月より現職。
    聞き手: フォースタートアップス株式会社 竹内 哲也、玉山 和樹

    コロナ禍の航空業界で雇用を守り抜いた経験。そして次の挑戦へ

    竹内:SmartHRに入社される前は、航空業界で人事本部長を務められていました。

    宮下氏: ええ。入社したのが2020年3月で、まさにコロナ禍が本格化する直前でした。入社3ヶ月で、会社は売上が7割減という壊滅的な状況になり、数百人規模のリストラを断行せざるを得ませんでした。航空業界は労働集約型のビジネスです。私は「コロナはいずれ終わる。その時にどれだけの人員を抱えているかが、アフターコロナの成長を決める」と考えていました。

    そこで、社長と共に「雇用を守る」決断をしました。当時NHKのニュースで見た「在籍出向」のスキームをすぐに提案し、株主や従業員への説明に奔走しました。前例のない中、全国の企業に出向の受け入れをお願いして回り、最終的に800人以上の雇用を守りながら、その年度を奇跡的に黒字化できたんです。この経験で、改めて「人事の力」を痛感しましたね。

    竹内:大きな成功体験を経て、なぜ転職を考えられたのでしょう?

    宮下氏: 当時、辞めるつもりは全くありませんでしたが、フォースタートアップス経由でSmartHRからカジュアル面談のお誘いをいただいたんです。

    玉山:芹澤CEOから「SmartHRを3,000人規模にするにあたって、逆算で組織作りができる人材が欲しい」というオーダーをもらっていて。「まさに」と思い、提案しました。

    宮下氏:ユニコーン企業として名前はもちろん知っていましたし、最初は面白そうな会社だな、というくらいの興味でした。ただ、何度か面談を重ねるうちに、彼らが持つオープンなカルチャーや、「誰が言ったかではなく、何を言ったか」を重視する合理的な姿勢に強く惹かれていきました。

    営業から人事へ。父の言葉と「人の成長」で見出したキャリアの軸

    竹内:宮下さんは、最初から人事のキャリアを歩まれていたわけではないのですね。

    宮下氏: 人事になろうとは全く思っていませんでした。キャリアのスタートはMR(製薬会社の営業職)でしたから。ただ、営業をしている時から「売れる営業の仕組みとは何か」を常に考えていました。その内容やTIPSを製品研修の部署で全国のMRに伝えたところ、売上が伸びたり、モチベーションが上がったりという声をもらって。「人の成長」が事業の成長に直結する面白さを実感したのが、この領域に興味を持った原体験ですね。

    竹内:「人の成長が会社の成長」という考え方は、昔からお持ちだったのですか?

    宮下氏: 振り返ると、幼い頃に父が「会社は人だよ」と話していた記憶があります。父はJR西日本で駅長をしていました。当時は何気なく聞いていましたが、その言葉が頭の片隅に残っていたのかもしれません。事業戦略を動かすのも、数字を上げるのも、結局は「人」。その大切さは、現場のメンバーだった頃からずっと感じていました。

    「肩書きなしで、本当の自分で勝負できるか」。最大の葛藤と、それでもSmartHRを選んだ理由

    竹内:当時のSmartHRには、役員クラスでも最初はいちメンバーとして入社するという「パラシュート人事NG」の方針があったと伺いました。

    宮下氏: はい。正直に言って、そこはものすごく悩みました。未経験の業界でもありましたし、何よりこれまで人事の責任者としてやってきた自分が、またいちメンバーになる。その状況を受け入れられるのか、という恐怖は確かにありました。

    玉山:その葛藤を乗り越え、入社を決断されたポイントは何だったのですか?

    宮下氏: 3つあります。1つ目は、やはり「人」です。経営陣や人事組織の社員など、面談で会った方々が本当に魅力的で、「この人たちと一緒に働きたい」と心から思えました。2つ目は、日本に数少ないユニコーン企業で人事ができるという機会の希少性。これは逃したくない、と。

    そして3つ目は、私自身の長期的なキャリアプランです。将来、故郷の福井で中小企業の経営コンサルティングをやりたいという夢があるのですが、そのためにはSmartHRのような急成長スタートアップでの経験が、必ずポジティブに働くと確信しました。

    短期的な視点で見れば、転職を迷う要素もあったかもしれません。でも、中長期的な人生を考えた時に、このチャレンジは絶対にすべきだと。そう思えた時、「肩書きという鎧を脱いで、裸一貫、本当の自分で勝負しよう」と腹を括ることができました。

    入社後の3ヶ月と「アンラーン」。SmartHRの”らしさ”を進化させる組織変革

    竹内:入社後、まず何から着手されたのですか?

    宮下氏: 私は営業上がりなので、「答えは現場にある」が信条です。最初の3ヶ月は、とにかくCxO、VPや社内のハイパフォーマーの方にヒアリングして回りました。「現状の課題は何か」「2030年に向けて不足しているものは何か」を問い続け、そこから人事戦略の骨子を作り上げていきました。

    玉山:大企業からスタートアップへの転職で、ギャップはありませんでしたか?

    宮下氏: もちろんありましたよ。Slackのカルチャーもそうですし、ボトムアップの意思決定の進め方には今でも悩むことがあります。大切なのは「アンラーン(学びほぐし)」すること。まずは今までの経験や実績を一旦ゼロにして、その会社のやり方にどっぷり浸かってみる。その上で、自分の経験をどう活かすかを考える。この姿勢がなければ、どこに転職してもうまくいかないと思っています。

    竹内:SmartHRのこれまでのやり方を変えた部分もあると伺いました。

    宮下氏:ハイレイヤー人材の獲得への注力 は、私が方針を変えたことの一つです。会社が1,000人の壁を越え、さらにスケールしていくためには、これまでの、パラシュート人事を行わないというやり方では事業成長のスピードに追いつけないと判断したからです。「アクティング(代行)」という形で、外部から迎えた優秀な人材に相応の役割を暫定的に与え、成果を出した上で正式に任命する仕組みを導入しました。

    もちろん、「今までのSmartHRらしさが変わってしまう」という声もありました。しかし、会社は常に変わり続けなければ衰退するだけです。「今後の成長のために、変わること、スイッチバックが常に必要なフェーズである」というメッセージを伝え続けることで、変革を進めていきました。

    SmartHRで見据える未来と未来の挑戦者へのメッセージ

    竹内:最後に、宮下さんがSmartHRで成し遂げたいこと、そして日本のビジネスパーソンへのメッセージをお願いします。

    宮下氏: SmartHRは今、クラウド人事労務ソフトという単一事業(モノカルチャー)から、バックオフィス業務全体をシームレスにするマルチプロダクトの会社へ、そして新規事業へ進展をはかるなど、まさに第二創業期を迎えています。2025年6月にSmartHRは2030年に向けた事業戦略を発表し、売上1,000億円を目指すと宣言しました。目標が明確だからこそ、人事としてもやるべきことは山積みです。カルチャーをバージョンアップしたり、エンゲージメントを高めていくことをやっていく。顧客の期待を超えていくことを、組織としてもやっていきたいと思っています。

    キャリアに悩んでいる方にお伝えしたいのは、「何のために仕事をしているのか」という本質に立ち返ってみてほしい、ということです。ワクワクするのは何か、社会にどう貢献したいのか。その本質が見えれば、タイトルや肩書きは、もはや重要な問題ではなくなるかもしれません。私自身、今も不安とドキドキの毎日ですが、このチャレンジを選んで本当に良かったと思っています。

    編集後記

    宮下さんとお会いした当時、SmartHRの組織は800名規模に達し、スタートアップからスケールアップ企業への転換期を迎えていました。特に、国内のSaaSスタートアップとしては前例の少ないフェーズであり、芹澤CEOからは「今後のスケールアップ企業の模範となる組織を構築したい」というお話を伺っておりました。

    宮下さんは外資系企業でHead of HRとして活躍されており、芹澤CEOが求めていた1,000名を超える組織でのご経験をお持ちでした。加えて、前職である航空会社ではコロナ禍に見舞われながらも、アフターコロナを見据えた制度設計で大きな功績を残されるなど、誰もが経験したことのない状況でも自ら道を切り開き、成功に導くというスタートアップ精神に通じるご経験があったことから、SmartHRを第一にご紹介しました。

    ご紹介した当初、宮下さんの転職へのご意向はそれほど高くありませんでした。しかし、SmartHRが掲げるビジョンや事業、そして芹澤CEOが目指す「『人事戦略といえばSmartHR』と想起される存在になる」という挑戦に強く共感され、現在の肩書や待遇にこだわらず、新たな挑戦の道を選ばれたことが今でも深く印象に残っています。

    実際にご入社後はCEO室に配属され、わずか1ヶ月で人事戦略を策定。2024年7月1日付で執行役員 兼 人事統括本部長に就任されました。

    現在は、SmartHR社が掲げる「well-working」の実現に向けて尽力されています。

    今回のインタビューを通して、宮下さんは将来的に日本企業が目指すべき組織像を創出し、社会で働くすべての人に良い影響を与える存在になるものと確信しています。

    宮下さんとSmartHRの挑戦に引き続き伴走し、ビジョンの達成を楽しみにしております。

    竹内 哲也
    シニアヒューマンキャピタリスト
    フォースタートアップス株式会社 ヒューマンキャピタル本部
    学生時代に第一子が誕生したことをきっかけにダンサーを辞めて、物流会社に就職。営業として月間トップ成績を記録した後、VOYAGE GROUP(現CARTA HOLDINGS)に転職。ITエンジニア採用支援事業のセールスマネージャーとし大手企業開拓を通じた年次130%の事業成長の牽引。また、人材紹介事業のRA部門の立ち上げを経験し、2018年にはベストチーム賞を受賞。その後フォースタートアップスへ入社。現在は、シニアヒューマンキャピタリスト兼マネージャーとして、スタートアップの人材支援とチームマネジメントに従事。
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    玉山 和樹
    ヒューマンキャピタリスト
    フォースタートアップス株式会社ヒューマンキャピタル本部
    学卒業後、都庁に入庁。政策の実行に関わった後に10名未満のベンチャー企業に転職。デジタルマーケティング支援事業にてトップの成績を残し、Ops整備や新規事業の立ち上げ、マネジメントなどを経験。
    その後フォースタートアップスへ入社し、現在はヒューマンキャピタリストとしてスタートアップの人材支援に従事。
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