EVANGEをご覧の皆さん、こんにちは。フォースタートアップスのEVANGE運営チームです。私たちが所属するフォースタートアップスでは累計1,800名以上のCXO・経営幹部層の起業や転職のご支援*をはじめとして、多種多様なビジネスパーソンを急成長スタートアップへご支援しています。EVANGEは、私たちがご支援させていただき、スタートアップで大活躍されている方に取材し、仕事の根源(軸と呼びます)をインタビューによって明らかにしていくメディアです。
インドでの安定したキャリアを手放し、無一文で起業に挑戦ーー。そんな経験を持つエンジニアがいる。
Micoworks株式会社のVP of AI Innovation & Engineeringを務めるSumit Agrawal氏は、Cisco、Novellでのテックリードを経て、スタートアップの共同創業、日本市場への参入、ソフトバンクとのジョイントベンチャー立ち上げなど、挑戦を重ねてきた異色のキャリアを持つ。現在はAIを活用したソリューションで企業の顧客エンゲージメント向上を支援するMicoworks株式会社で、AIによる顧客体験の革新を担うリーダーとして活躍している。
安定を捨て、ゼロから挑む。その背景には、「変化を恐れず、学び続けること」への信念がある。
Sumit氏のこれまでの歩みと、仕事にかける情熱の源泉に迫ります。
Sumit Agrawal
Micoworks株式会社 VP of AI Innovation & Engineering
インドにてキャリアをスタート。シスコシステムズでデータ分析業務などに従事した後、データ活用ソリューションを提供するスタートアップを共同創業。その後、ソフトバンクとのジョイントベンチャーなどを経験し、日本市場でのビジネスにも深く関わる。現在はMicoworksにてイノベーション&エンジニアリング部門を率い、AIを活用した顧客エンゲージメントソリューションの開発・推進を担う。
はい、大きな転機となったのはシスコにいた頃です。
セキュリティシステムのログデータ分析をしていたのですが、その時、非構造化データが将来的に大きな課題になるだろうと感じました。同時に、感情分析やキーワードタグのように、そうしたデータから価値を生み出すソリューションが必ず出てくると確信していました。
同じ頃、以前の会社(ノベル)の元同僚が起業のアイデアをいくつか持っていて、私に声をかけてきたんです。私たちは、自分たちの周りの人たちとも話し合いを始めました。
当時の仕事は安定していた一方で、既存の組織では新しいアイデアを実現することの難しさも感じていました。変化への抵抗があり、承認プロセスも時間がかかる。より機敏に、顧客のニーズに迅速に対応できる会社を作りたいという思いが強くなりました。
また、以前から何らかの既存の問題を解決し、雇用を生み出すようなインパクトのあるソリューションを一から作りたいという思いもありました。
ただ、経験がなかったので、まずはエンジニアとして下積みから始め、将来的に事業の主導的な立場を目指すという、一般的な道を選んだのです。
エンジニアの仕事から、当初の計画だった「起業して自社製品を作る」という思いが私の中で再び湧き上がってきたタイミングと、元同僚たちの状況が偶然(というより運命かもしれません)にも一致し、意気投合したんです。
私たちは何度も話し合いを重ね、最終的にStupa SoftTechという会社を設立しました。
もちろん、資金なしでビジネスを始めるのは大きなリスクでした。それでも、データの可能性と自分のアイデアを信じて挑戦することにしたのです。
「30%のビジョンと50%の明確さ、残りは不確かさ」という状況でしたが、覚悟を決めて一歩を踏み出しました。
一番の課題は顧客獲得です。実績も経歴もなく、ビジネス上のコネクションもない。さらにマーケティングに費やす資金もありませんでした。
まずは、とにかく人々に会って、私たちのアイデアや解決しようとしている問題について話すことから始めました。彼らが同じ問題を抱えているか、私たちのアイデアが意味を持つかを確認していったのです。
この経験を通じて、私たちの価値観が確立されました。単に技術を提供するのではなく、顧客のビジネス課題を深く理解し、それを解決することに価値を見出す。テクノロジーはあくまで手段であり、目的は顧客の問題解決である、という考え方です。「有用性」に焦点を当てることが重要だと学びました。困難な時期を乗り越える「回復力(レジリエンス)」と「忍耐力(パーシビアランス)」、日本語で言う「辛抱」の精神も、この時に培われたものです。
日本のビジネスや社会では、細部にわたる計画と完璧さが非常に重要視されます。一般的に、ミスは許容されません。
黎明期で成長中のAI分野においては、企業にとってAIが価値を持つかどうかを見極めるためのテストプロジェクトとして始まるのが常でした。これは、日本の従来の考え方とは大きく異なります。
その一方で、企業はスモールスタートを望みながらも、まるで本格的なプロジェクトであるかのように完璧に計画された詳細な情報を求めてきます。そのため、3年後の計画や詳細を作り込みながら、半年や1年の小さなプロジェクトを獲得するのに多くの時間と労力がかかるのです。
私たちは日本でも有数の大手消費財メーカーに対して、約21品目の販売数を予測する3ヶ月間のPoC(概念実証)を提案しました。
たった3ヶ月のPoCだったにもかかわらず、PoCをどう成功させるか、どうやって段階的に1.5万SKUまで拡張していくか、なぜそれが可能か、価格設定はどうなるかといった計画を準備して共有する必要がありました。PoC後の利用方法についても、何度も質疑応答がありました。
日本でのビジネスは非常に体系化され、構造化されていると感じました。プロセスが非常に重視されますね。また、人々が3年後、5年後を見据えた長期的な視点を持っていることにも感銘を受けました。これは短期的な結果を重視しがちな他国の市場とは異なる点です。
日本の主要企業は品質基準が非常に高く、細部まで注意を払う。そうした厳しさから多くを学びました。
一方、プロセスやステークホルダーとの合意形成を重視する文化は、時にスピード感を妨げる側面もあるかもしれません。しかし、顧客の真のニーズを理解するためには、なぜ彼らが特定のプロセスやタイムラインを求めるのか、その背景にある理由を深く理解しようと努めることが重要だと学びました。異文化理解の必要性を痛感しましたね。
はい、ソフトバンク・アメリカとの協業では、特にROI(投資収益率)に対する考え方について多くを学びました。彼らは非常にデータドリブンで、全ての決定において明確なROIを求めます。これにより、私たちもビジネスソリューションやユースケースをより厳密に、成果にこだわって考えるようになりました。
AI Innovation & Engineering部門を率いています。私のチームはAIの構築に注力し、企業と顧客のやり取り・対話を改善するための革新的なソリューションを主導しました。これにより、企業はAIからより良い知見を引き出し、顧客に真の価値とソリューションを提供できるようになります。
この部門は、元々会社にあったエンジニアリング部門に、私たちがAIによるイノベーションという要素を加えて統合し、創設したものです。
Micoworksが掲げる明確なビジョンと計画に惹かれました。「2030年までにアジアナンバーワンのエンゲージメントカンパニーになる」という目標は非常に野心的で、そこに貢献したいと強く思ったのです。資金調達の状況も含め、計画がしっかりしていると感じました。LinkedInで募集を見て「面白そうだ、やってみよう(Let's try)」と思ったのがきっかけです。
大きなギャップはありませんでした。会社は非常にオープンでコミュニケーションも活発です。予想以上だったのは、会社の成長スピードですね。常に新しい挑戦があり、変化への適応が求められますが、それはむしろ刺激になっています。
一番は「グローバリゼーション」そのものです。単に海外展開する日本企業ではなく、真のグローバル企業になるためには、文化的な違いを乗り越え、多様な人材が協力できる環境が必要です。その鍵となるのが、「All for one(全員は一つのために)」や「Open mind(偏見のない心)」といったコアバリューだと考えています。これらの価値観を浸透させることが、グローバルチームとしての一体感を生むと信じています。
また、成長を支える人材、特に専門スキルを持つ人材の確保も課題です。フィリピンとインドにあるテクニカルセンターを強化し、グローバルな開発体制を築いていく必要があります。
重要なのは、「真のニーズ」を理解することです。顧客が「ハワイに行きたい」と言っても、その目的が「静かな環境で働きたい」ということであれば、提供すべき解決策はハワイ旅行ではないかもしれません。
技術者はすぐに解決策に飛びつきがちですが、ビジネスサイドとしてはまず本質的な課題を捉える必要があります。
そして、ビジネスの考え方を持つときは技術から、技術の考え方を持つときはビジネスから、一度自分を切り離して考えることが重要です。両方を同時に持ち込もうとすると、解決策よりも多くの問題を生み出しかねません。それぞれの視点を使い分けることで、真に価値のあるソリューションを提供できると考えています。
多くのAIプロジェクトがうまくいかないのは、AIが高精度な予測をできたとしても、それをどう活かすかの計画ができていないと、結局価値につながらないからです。
本当に必要な価値に焦点を当てれば、どんな予測が必要なのかが逆に見えてきて、その予測と具体的な行動をセットで考えられるようになります。
たとえば、天気予報で97%の降水確率が出たら、「雨が降るなら傘を持っていこう」という行動につながりますよね。
このように、予測に基づいて取るべき行動があるからこそ、(風邪をひかないといった)価値が生まれるわけです。
ビジネスの例で考えてみましょう。
ある日用消費財の売れ行きを98%の精度で予測できたとします。
でも、これは2%の誤差があるということでもあります。
もしこの予測に基づいて、製造や流通(ロジスティクス)を調整するといった動きができなければ、その予測はただの情報で終わってしまい、コストを最適化したり、販売の需要に応えたりといった価値には結びつかない可能性があるんです。
最も重視するのは「オープンマインド」であることです。新しいことを学ぶ意欲があり、変化を恐れない人。そして、チームとして協力し、お互いをサポートできる人ですね。
スキルや経験ももちろん見ますが、それ以上に会社の文化や価値観に共感できるかが重要です。JavaやAIのようなスキルは後から学べますから。
チャレンジするマインドセットを持ってください。失敗を恐れず、そこから学び、次に活かすことが大切です。ショートカットはありませんが、学び続ける意欲があれば必ず道は開けます。好奇心を持って、プロセスそのものを楽しんでほしいですね。
会社としては、アジアナンバーワンのエンゲージメントカンパニーになるという目標達成に貢献したい。顧客とのエンゲージメントを深め、顧客基盤を成長させる強固な基盤を築きたいです。
個人的には、チームメンバーの成長をサポートすることに情熱を注いでいます。かつて私自身がメンターに支えられたように、今度は私がメンバーのキャリアパスをサポートし、彼らが成功できるよう手助けしたい。従業員の成長への投資が、当社の成長、最終的にはクライアント企業の成長というROIにつながると信じています。AIリーダーとしての明確なキャリアパスを示せるような存在になりたいですね。
Sumitさんには2023年12月にお会いさせていただきました。その時に「ダイナミックなチャレンジがしたい」とお話されていたのがとても印象的で、グローバルチャレンジに本気で取り組もうとしている起業家、経営陣にお引き合わせすることを約束し、Micoworks社へご支援させていただくに至っております。
最終的には山田CEOを始めとして、「情熱」、特にグローバルへの挑戦の本気度合いに対しての熱量の高さに強く惹かれ、Sumitさんが意思決定をなされたのを記憶しております。今まさに、SumitさんがMicoworks社のグローバル進出の第一歩を担う活躍をなされていることに嬉しさを感じております。
この度は本インタビュー記事の公開にあたり社内外で多大なるご協力をいただき、関係者の皆様には深く感謝しております。ありがとうございました。(写真右・町野 史宜)
Sumitさんはお人柄が素敵で丁寧なコミュニケーションを取られる方だと、お会いした当時から強く印象に残っています。前職でもCTOを務めるなどご活躍されてきた方でしたが、技術面はもちろん、そのお人柄がゆえに人や組織が付いてくるのだろうと感じています。
ご経験も申し分のない中で、日本国内にとどまらない大きなチャレンジをしたいSumitさんにとって最高の機会を提供したいと思い引き合わせたのが、グローバルへの挑戦を掲げるMicoworksさんでした。入社後、早速ご活躍されている姿をこのように伺えたこと、嬉しい限りです。(写真左・中村 翔太)
町野 史宜 シニアヒューマンキャピタリスト
福岡県出身。大学卒業後、大手放送通信業者USENに新卒入社。U-NEXT(当時:GayO NEXT)の立ち上げ時期に営業職として従事。その後、オーストラリアの国立大学院にて修士課程を修了。IT系ベンチャー企業レバレジーズにてエンジニア/クリエイターの転職支援を中心に、エンジニア教育事業の立案やアライアンスなどを推進。2016年8月よりforStartupsに入社。現在はCxO/幹部クラスの方々、グローバル人材のご支援を中心に活動中。
中村 翔太 ヒューマンキャピタリスト
島根県出身。大学2年次より約2年半議員の鞄持ちを務める。後に休学し、ベンチャー企業でのインターンを複数社経験。政治家の道とビジネスの道を比較し、未来をより速く、より明るくできる選択肢としてビジネスの道を選択し、2021年4月よりforStartupsに入社。現在は、エンジニア/プロダクト人材を中心としたご支援を担う。